沖縄では方言を「島くとぅば」といいます。柔らかい表情と優しい語り口というイメージの沖縄方言ですが、今その方言をめぐる環境に変化が…。現実の沖縄が抱えている沖縄方言の実態とは?

標準語=沖縄版標準語?

沖縄に移住してきた私にとって沖縄の方言は、「日本語であらず」でした。なぜならば「地域によって方言が全然違うから」なのです。とはいえ沖縄に移住してきたからには「方言を覚えなければ何をするにも困る」というのが、今から20年位前の話でした。

考えてみれば沖縄のお笑い芸人たちが全国区のテレビに登場するようになったのは、比較的最近のことです。もちろん移住する以前にも観光目的で沖縄を訪れたことがあった私ですが、観光スポットで耳にする方言は今から思えば「沖縄版の標準語」といったところでした。そのため「言葉に壁がある」なんてことは考えもせずに移住してしまった私。つまり移住をしてみなければ「本当の沖縄の方言に触れることはほぼない」のです。

沖縄の標準語は全国規模の標準語とは違う

沖縄に長く住むようになった今ではある程度の方言が分かるようになってきた私ですが、そんな私だからこそ感じるのが「標準語の認識の違い」にあります。

例えば一人称を表す言葉がありますよね?標準語では「わたし」「わたくし」「僕」「俺」などが考えられますが、沖縄の場合はこれに「自分」が加わります。そしてビックリすることに「自分」という言い方が正しい標準語と思っていることも割と多いのです。

「実際にどんなところで感じるか」、職場での新入社員A子と上司の会話を例に挙げてみましょう。

上司:「誰かこの書類の整理をお願いできる人いないかな?」

A子:「はい!自分がやります」

この会話は、比較的よく耳にするものです。A子はこの会話の中で「自分」という一人称を標準語であると信じ切って使っています。もちろんこの場合は「わたくし」また「わたし」を使うのが正解です。でも沖縄では一人称に「自分」を使うことが多いため、誤った標準語として認識しています。

これは一人称に関するだけとは限りません。こまごまとした点でもたくさんあるのでここでは紹介しませんが、多くの場面で沖縄の人は「標準語」と「沖縄の方言」がゴチャ混ぜになって使っています。

方言から標準語に変換するのに通訳が必要

沖縄は、本島意外にも数多くの有人島があります。もちろん島ごとに方言があるため、同じ沖縄県民でも出身地によって全く違う方言を話します。最も人口が多い沖縄本島でも地域によって方言や発音、イントネーションや単語の意味が異なるため、すべての地域の方言が分かるという人は相当限られます。

もちろん方言を使う頻度が高い高齢者と若者でも、方言の質や発音の仕方に違いがあります。ということはそもそも沖縄の方言が分からない移住者にとっては沖縄の方言は、言い換えれば「外国語」といえます。

そのためわたしも方言がほとんど聞き取れなかった頃は、方言しか話すことが出来ない地元のオバーと会話をするために2人の通訳が必要でした。どんな風に会話していたかというと、こうなります。

まずはオバーがしゃべる昔ながらの地元の方言(これは聞き取るのに相当なスキルが必要なレベル)を沖縄版標準語に近い形で通訳してくれるAさんがいます。Aさんは沖縄版標準語に近い方言は話すことが出来るのですが、一般的な標準語に置き換えることが出来ません。

そのためAさんの言葉を標準語に通訳するためのBさんが登場します。Aさんの話をBさんが標準語にしてくれることで、ようやく私がオバーの話の内容を理解します。しかし厄介なのは「会話の成立」ということです。そのため今度は私→Bさん→Aさん→オバーの順に言葉を変換して伝えていきます。こうしてようやく1つの会話が成立します。

さすがに長く沖縄に住んでいることで方言もわかるようになった私は、かつてのような大掛かりな通訳がいなくても沖縄の人と会話が出来るようになりました。それでも早口で話されたり難しい方言の表現が出て来ると、今でもどんなことを言っているのか分からなくなるので通訳してもらっています。

沖縄の都会に住む現代っ子は方言がしゃべれない・わからないが圧倒的

「沖縄の人であればだれでも方言が話せる・聞ける」と思っているかもしれませんが、そんなことはありません。特に若い世代の子どもたちの間では方言離れが進んでいます。そのため「方言で話してくるオジーやオバーの話の意味がよく分からない」という若い子も珍しくありません。

もちろんここにも核家族化の影響があります。かつては3世代または4世代が同じ家の中で暮らすのが、一般的な沖縄の家庭でした。ところが今では本州と同じように核家族化が進み、方言を話す高齢者と若い世代が別々に暮らすようになりました。

そのため若い人の間では、たとえ沖縄に住んでいても方言に触れる機会がほとんどありません。ただ「標準語が話せるか?」となると、イントネーションが違ったり間違った標準語を覚えていたりするため正しい日本語としてはちょっと問題があります。

そんな状況が少しずつ一般化してきた今、沖縄の中で方言が少しずつ消えてきています。もちろん方言が分かる若者世代もいますが、その多くは小さい頃にオジーやオバーとともに生活した経験を持つ人です。

方言は暮らしの中で身についていきます。方言のない暮らしを続けていれば、当然方言を耳にすることも口にする機会もありません。そうなればどんどん沖縄の方言は消えて行ってしまいます。

そのことに危機的に感じているのが、今の沖縄。だからなのか、沖縄では標準語を教えると同時に沖縄の方言(島くとぅば)を教えます。しかも小学校の授業の中で教えるというケースもあります。

実際に私の娘が通っている小学校では、「島くとぅばの授業」というものがありました。学校の授業で方言を教えるということに対しては賛否ありますが、地元出身者の多くは肯定派です。

ちなみに移住組の私としては「正しい日本語を先に身に付けてほしい」という想いと「沖縄に生まれたのだから沖縄の方言を知ってほしい」という想いの間で葛藤を続ける日々を過ごしています。

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